海を見ると心湧き立つ気がしてくるのは、山国住民の性質なのであろうか。凪いだ海面、波の音、潮の香りを体感すると子どものように嬉しい気分が横溢してくるようだ。
しかし、新潟に住む息子が、
「新潟で使う車や自転車は新潟で買え」
と言っていたのを聞き調子のよいことは言えないとつくづく感じさせられた。なんでもかの地出身の友人によると、海岸沿いは塩気が強いので金属ものは耐塩加工を施したものでなければ、あっという間に錆びてしまうとの事だ。海沿いに住んだこともなく海の良い面しか見た経験しかないものが簡単に言ってよいことではないのかもしれない。
能書きはさておき、直江津にいる。海産物補給のため、しばらくぶりの訪問だ。県外への移動は好ましくないのかもしれないが、東京や名古屋など大都会へ行くわけでなし、感染者の少ない田舎から田舎への移動であれば迷惑をかける事もなかろう。要はどこへ行くか、ではなくどのように行動するか、なのだから。
直江津という街は存外に広くてなかなか海に行き当たらない。山の方から赴くわけだから当たり前なのだが、もう少しもうちょっとと車を進め、佐渡汽船ターミナル辺りに到達してようやく潮くさく海っぽい雰囲気となってくる。やはり海はよい。そしてここからなお10分ほど行ったところに目的の店はある。
「といちや」
海沿いの街道を北上し、黒井という住宅地のほぼど真ん中に位置する地にある寿司屋さんだ。狭い間口から昔ながらの町屋がそのまま保存されている事がわかる。寒気対策であろう二重の引戸を抜け内部へ。5席ほどのカウンターと小上がりがある。開店直後であったため小上がりへ通してもらえる。ランチメニューはあなご天丼、天丼、ねぎトロ丼や定食ものが用意されているが、私はもちろんデフォルトメニューとする。
「海鮮丼」980円
メニューにまぐろ、大トロ、サーモン他との記載があるだけでどのようなものが登場するかわからなかったが、想像以上に煌びやかな品であった。黒く平らな盃のような丼に酢飯そして数々の刺身類。ハマチ、カツオのたたき、サーモン、甘海老、タコ、ねぎトロ、湯引きハモ、とびこ、明太子、イカおくらなどが所狭しと並べられている。鮮度が高いのは当たり前だろうが、そのほどのよさがよい。酢飯の酢の効きかたよし。味噌汁もよし。これで980円は長野では絶対に出会えない。
平日という事もあろうが、それでも夏休み入りしているはずの直江津海岸にひと影はまばらであった。歩くには具合がよいが、もう少し人出がないと、暑いだけの海岸は寂しすぎる。